夜盗 お七

作詞

Contents

時代劇と江戸の文化

深夜のベッド、コン コン コン狐の鳴き声のような拍子木の音、研ぎ澄まされる神経理不尽な封建時代の舞台設定が浮かぶ。

年寄りは時代劇が好き、子供の頃祖父がテレビで時代劇を良く見ていた。藤の椅子に座ってと言うより寝転んで、女中に時間になるとチャンネルを変えさせていた。

当時は『水戸黄門』、『銭形平次』位しか覚えていないけど、それぞれの時代で盛衰はあれどずっと時代劇は続いている。今はBS放送で夕方からゴールデンタイムにかけて放送されている。ちょうど年寄りの夕食の前後で見せて置けば、介護する人の手間が省けるのだろう。

それと剣客ものを書く作家も増えたこともある。古くは野村胡堂、山本周五郎、吉川英次、柴田錬三郎、池波正太郎、藤沢周平、司馬遼太郎。そうそうたる顔ぶれである。他にも女流作家、そう有名でない作家を入れると百人ではきかない。

何故時代劇は年寄りのものとなってしまったのだろう。それは作り手の方にあると思われる。年寄りはマンネリを好むのは致し方無いけれど、それに迎合してストリートをパターン化させて自分達が作りやすくした点と、年寄りが好む勧善懲悪の世界を多用しすぎた。それらがより若い者たちにも受け入れられず、地上波から時代劇が消えていった。

時代劇こそもっと現代の常識に囚われず色んなイメージが試しやすいドラマ素材なのに、それを自ら殺してしまったのだろう。それと今の若い俳優は時代劇を演じるのが下手である。現代ドラマに見られる演技姿勢に、自らの素材で自然に演じるのがいかしていると考えている節がある。誰も俳優個人の自然さなんか求めていない、見てもそれが何なのになるのに勘違いしている。

時代劇の背景になるのは、大抵徳川二百六十年の泰平の世の中の理不尽や葛藤を描いたものが多い。家光の時代に、参勤交代が制度化されて大名達が一年おきに、国元と江戸表を代わる代わるに住まなければいけなくなった。それに伴いお供のものたちも、交代で一年ぐらいは単身で江戸住まいを余儀無くされた。だから当時の江戸は男に比べて女の数が極端に少ない。一説によると江戸の町には独り者の侍が十万人とも言われるほど居たらしい。夜のおなごの一人歩きなどもっての他だった。

 

だから吉原を始め岡町が各所に出来た。侍の給金で高級花魁なんかとても望むべくもないが、それ相応の相手を見つけなんとかこなしていたと思われる。娯楽も発達し江戸の文化を参勤交代が支えたのはまちがいがない。

野村胡堂『銭形平次 捕物控』、吉川英次『鳴門秘帖』『宮本武蔵』『新・平家物語性』、山本周五郎『樅の木は残った』『赤ひげ診療譚』『五 瓣の椿』、柴田錬三郎『眠狂四郎無頼控』『御家人斬九郎』、司馬遼太郎『竜馬がゆく』『燃えよ剣』『坂の上の雲』、池波正太郎『鬼平犯科帳』『剣客商売』『仕掛人・藤枝梅安』、藤沢周平『たそがれ清兵衛』『蝉しぐれ』など上げれば切りが有りません。それぞれ作風も狙いも違い読みごたえの有るものばかりです。池波正太郎の軽妙なドラマ仕立て、藤沢周平の侍の儚さに向けた独特の視線。魅力は尽きません。

現代放送中のものに「暴れん坊将軍」「子連れ狼」「必殺仕事人」「遠山の金さん」「剣客商売」「銭形平次 捕物控」「三匹の侍」「鬼平犯科」など綺羅、星のごとくです。みんな再放送ですが、鮮度は落ちていません。登場人物が三人同じシーンで出てくるのですが三人とも鬼籍の人なのが又良いですね。

私の好きなのは二代目中村吉右衛門の鬼平が好きですね。エンド曲のジプシーキングスの『インスピレーション』の被せが堪りません。これからも、もっと新しい視点の時代劇が出て来ることと、それに耐えうる若手俳優が出て来るのを楽しみにしています。

それにはやっぱり、秀逸な原作が必要です。今は、アニメでもハリウッドでもチームでシナリオを作って、精緻に作り込んで行くのは判るのですが、そこはやっぱり原作が作り出す色とかイメージは一人の天才がいてなし得るものだと思います。何でも細分化してデジタル化して後で圧縮して一瞬ハサミのに流す手法もいずれ飽きが来ると思います。人生と一緒で重大な決心は何も誰もITも助けてくれません。決めるのはあなたの頭の中のNerveです。

 

夜盗 お七

作詞 つばめのす

蕎麦売りの鶴吉
いつもなら定位置で商うのに
雪が降って来たので
流しに切り替える
とある大店の裏木戸

木戸が開いて 蕎麦二つ
鉢を返すからそこで待ってて

参勤交代で十万の単身赴任の
武士が溢れる江戸の町
こんな夜更けに女が一人
珍しい

と 見ていると 高塀をひらり
夜盗お七だ
鶴吉は 腰を抜かして動けない

暫くすると 木戸が開いて
さっきの女が出てきた
兄さん 一杯私にもおくれ

妖艶な唇が艶かしい
蕎麦を食べ終ると
何も言わずに 一両ポイと渡し
暗闇に消えていった
まだ震えが 止まらない

それから 暫くすると
木戸が開いて 鉢を返すよ
なんと言う 手際の良さ

鶴吉は 惚れた お七に
江戸の町に しんしんと雪が降る

 

この作品の著作権は作詞者に帰属します

 

タイトルとURLをコピーしました